『両手には取り越し苦労を』



















今、俺は悩んでいる。

途中、扇風機で声を変えてみたりしたが、それでも気が晴れない。

もしも、この町から出られずに「翼をもつ少女」を探せなかったら・・・

 

 

 

『おい、これ蹴って帰ろうぜ。』

『ふぉ、わしの人形を返しなされ。』

ボコッ!

『ふぉ〜〜〜〜』

 

 

 

・・・な人生になりかねん。

ガキになめられる人生はゴメンだ。

いや、今の俺にはそれより大事なことが・・・

 

「あれ、往人さんどうしたの?」

「観鈴か。ちょっと考え事だ。」

「往人さんも考え事するんだ。」

ポカッ

「イタイ・・・どうしてそんなことするかな〜」

「おまえが失礼なこと言うからだ。」

 

いつものやりとり。

だが、その中でも俺の不安は少しずつ大きくなっていく。

 

「それで、なんの考え事してたの?」

「別になんだっていいだろうが。」

「教えてよ。『三人寄れば文殊の知恵』って言うじゃない。もしかしたらわたしがいいアイ

 デアだせるかもしれないし。にはは、観鈴ちん頭いい。」

「一人足りないだろうが。」

 

「ぴこぴこ〜〜〜〜」

 

「・・・一人足りないだろうが。」

あえてここは無視すべきだろう。

「が、がお・・・それじゃあ、教えてくれたら今日のお昼、ラーメンセット。」

キュピ・・・いや、これでは昼飯に負けたことになる。

「ダメだ。」

「ご飯も大盛りにするから。ね?」

キュピー・・・いかん、どうにかしないと俺の中の食卓魔人が目覚める・・・!

「ダ、ダメだ・・・」

「じゃあじゃあ、チャーシュー三枚追加!」

キュピーン!!

「ちゃーしゅうゴマイツイカニシテモラオウ・・・」

「うーん・・・わかった。」

交渉成立。なのに心なしか俺の心に敗北感が残る。

まぁ、一人で考えてもしょうがないと自分に言いきかせ、観鈴に話し始める。

 

「おまえには、俺の旅の目的を話したよな?」

「うん。翼をもった女の子を探すんでしょ?」

「そうだ。それで最近、母さんが昔話してくれたことを少し思い出したんだ。

 それは、『少女はけっして大人になれない』ということだった。」

「それってわたしみたいだね。」

「ほう、そのこころは?」

「観鈴ちん、このままだと留年決定。ずっと卒業できないから、ずっと大人になれないの。」

「・・・却下だ。」

くそ、やはりこいつに話したのは失敗だったか。

 

「でも、それでなにを考えてるの?」

「少し考えてみろ。むこうも成長するならともかく、いつまでも少女ということはだ。」

俺はとうとう話の核心に触れる。

「俺がたとえば中年になったときにその少女を見つけたとしたら?」

俺はもう一度想像してみる。

中年になった俺と翼をもつ少女の感動の対面シーンを。

 

 

『君が翼をもつ少女か。俺は君を救うために旅をしてきたんだ。』

 

『誰ですか、あなた。いやー、だれかー』

 

『おい貴様、そんな女の子になにしてやがるんだ。』

 

『ちがう、俺はそいつを救うために・・・』

 

『何言ってやがるそんな目つきの悪い顔しやがって。どうみてもその子を襲おうとしてた

 じゃねーか!

 

『だから俺の話を・・・』

 

『聞く耳もたん!!』

 

 

『本日少女誘拐未遂で、住所不明の無職、国崎往人(年齢不詳)が逮捕されました。

 調べによりますと被告は【法術】や【翼をもつ少女】などという謎の供述をしており、

 弁護側は精神鑑定の要求を・・・』

 

 

              中年は獄中の人。

 

彼の道連れはふたつ。

 

主人の出所を待つ、古ぼけた人形。

 

「罪」を犯した者にかせられる、とても重い刑罰。

 

 

・・・

 

 

 

「そんなの嫌だ〜〜〜〜!!」

「あの、往人さん?」

「だったらまだ『ふぉ〜〜〜〜』の方がマシだーーー!!」

「往人さんってば!」

「はっ!そんなことにならない内に探さなければ!今ならまだナイスガイでいけるハズ

 だ!なぜもっと早く気が付かなかったんだ、俺!」

 

「じゃあな、観鈴。世話になった。うおりゃああああああ!!!!」

・・・

「往人さん、いっちゃった・・・お昼まだなのに、大丈夫かな。」

 

その後、バス停に空腹で倒れている俺が発見されたらしい・・・

 

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