向かい風、はじく
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サクサク…… 砂を踏む度に鳴る音がなんだか楽しい。 本当は裸足で歩きたいんだけど…… 今日の日差しじゃ火傷するほどに砂が熱くなっているだろう。 サクサクサク…… ちょっと残念。 でも、あの時はどうしてたんだろう? 確か、裸足だったと思うのに。 火傷した記憶なんてないし……ああ、――そっか。 もっと水際を歩いたんだった。 そう、父――ううん、あの時はパパ――に手を引かれて。 サクサクザク…… うん、どんどん思い出してきた。 今着ているのとは色もサイズも違うけれど、お気に入りのワンピースを着た私は久しぶりのお出かけにご機嫌だったっけ。 早めの夏の海にはまだ人もまばらで、そして水も冷たかったんだよね。 だから、泳ぐのは諦めてパパと2人で歩いたんだ。 そうそう、私は水際に寄せる波と うん、そう!波との追いかけっこだ! 追いかければ追いかけるほど、鬼を交代した時にその倍追いかけられる鬼ごっこをしたんだった。 追いかけられる度に私は悲鳴をあげて逃げたんだけれども、 結局捕まってしまってお気に入りの服の裾を濡らされて、 怒って再び引いてく波を追いかけた。 繰り返し、繰り返し…… それは頭が真っ白になるくらいそれは楽しくて、楽しくて。 今日まで忘れてしまっていたくらいに。 パパはそれを笑って見ていてくれた。 ……。 海から吹いてくる風が気持ち良い。 潮風だからずっと吹かれていたらべとべとになってしまうんだろうけれど、時折強くなる程度の風は心地良さしか感じさせない。 もっと風を感じていたい。 単純にそう思って波に向かう。 砂の色が変わる。音も変わる。 波との追いかけっこに疲れた私はママの待つパラソルの下にパパと戻ることにした。 その間ずっとパパとお話した。 手を繋いで歩いて、 楽しいねって、お弁当何かなって…… 少しだけ前を歩くパパと繋いだ手はちょうど見上げる位置にあって、 すっごく大きくて、なんだかパパという存在が凄く誇らしい気持ちだった。 包まれている自分の手まで強くなれた気さえしてた。 ママの所に戻ってからはパパが飲み物を買いに行ったのでママとおしゃべりだった。 全部は覚えていないのだけれど、でも、たくさん話した気がする。 どんな小さな事でも、優しく笑ってその度に頭をなでながら相槌をうってくれる、 そんなママの反応が嬉しくて。 友達の話、学校であったちょっと嫌な事、水泳の授業でいつもより遠くまでいけたこと、夏休みの目標…… どれも家でも話せる小さな事。 でも、ママの腕に抱かれてのおしゃべりはとても幸せで心地良かった。 ……。 風は私の髪を軽々と持ち上げて通り抜けていく。 ――少し強くなったみたい 暑さは気にならないけれど、空を仰げば、 空の真ん中に見える夏の太陽が目が眩むほどに光りを降り注いでくれている。 髪を押さえつけながら思う。 あの日の風もこんなに強かっただろうか? あの日の日差しはこんなにも強かっただろうか? 向かい風をはじく大きな手。 日差し遮る優しい手。 全てから守られていたことに私は気付かずに…… 斜め上を見上げても誰もいない。 片手を伸ばしても風しか掴めない。 背中の温かさはもうない。 こぼれた言葉は風に飲まれる。 「そっか、独りだ。私、独りだ」 サク……サク…… 砂が鳴る。 ――カラーンカラーン 「――さんー!!お時間ですのでお願いしますー!」 鐘の音と堤防からの呼び声に振り向く。 「わかりましたー!すぐ戻りますんで先に戻っていてくださいー!」 頷いて黒服の女性は戻っていく。 カラーンカラーン…… 鐘の音は響く。 「さてと……戻らないとね」 すっかり砂になじんで埋もれかけた足を動かした時、 後ろで海鳴りがした。 振り返って耳をすますと……波の音に混じって遠くから聞こえてきた。 嵐の予兆であるはずのその音はそんな荒々しさは全く感じられなかった。 うん、それは……海が話しかけてくる感じ。 再び教会に向けて歩き出す。 後ろから海鳴りが聞こえている。 さぁ――どんなこと話そう? うん、『ありがとう』と、……『さようなら』かな。 私は鐘の音に向かって、走りだした。 ――パパ、ママ……今まで守ってくれてありがとうね いつか2人が守ってくれたように……私も誰かを守れるようになるよ うん、バイバイ―― |
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